老犬の前庭疾患は、体の平衡感覚をつかさどる前庭と呼ばれる部分に何らかの障害があり、神経症状が現れている状態です。
犬が高齢になるとどの子にも起こる可能性があるので、知っておくべき病気の1つです。
本記事では、老犬の前庭疾患について、寿命はどのくらいなのか、治るのか、ご飯を食べない時にはどうしたらいいのかなどについて解説していきます。
老犬の前庭疾患の寿命
老犬の前庭疾患は、特発性や抹消性と呼ばれる原因の場合には、寿命に影響を与えません。
しかし、脳腫瘍などが基礎疾患として根本に隠れている場合には、徐々に悪化して命を落とすこともありえます。
飼い主さんは、愛犬が前庭疾患になった場合には、他に疾患が隠れていないかどうかしっかりと検査するようにしましょう。
老犬の前庭疾患の原因
老犬の前庭疾患の原因は、抹消性、中枢性、特発性の3つに分けられます。
この中で最も多い原因は、特発性であり、一時的に症状が出て治っていくことがほとんどです。
しかし、抹消性、中枢性が原因による前庭疾患では、原因疾患が改善されないと症状も治らないことが多いので、しっかり検査しましょう。
末梢性前庭疾患
抹消性前庭疾患は、中耳炎、外耳炎、甲状腺機能低下症などの疾患が原因となって症状が出てきます。
前庭は、耳の奥に位置しており、中耳や外耳の炎症が波及することにより、前庭疾患になることも多いです。
抹消性前庭疾患の場合、原因となる疾患の治療をしっかりと行えば症状は改善していくでしょう。
中枢性前庭疾患
中枢性前庭疾患は、脳のダメージや腫瘍により発症します。
脳梗塞や脳出血などが起こっていることもあるので、MRI検査など精査が必要です。
一度傷ついた脳の部分はなかなか改善されないので、症状は治りづらいことがほとんどです。
特発性前庭疾患
特発性は、前庭疾患の中で最も多くみられる原因です。
原因がはっきりとはわかっていないが、なぜか前庭疾患を起こしてしまう状態であり、検査しても何も異常がないことがほとんどです。
症状が急に始まり、1週間ほど継続した後、数週間〜数ヶ月かけて治っていくことがほとんどです。
老犬の前庭疾患の症状
老犬の前庭疾患の症状は、非常に多く、重症度もさまざまです。
気持ち悪さから、食欲低下や元気消失などがみられることもあるでしょう。
前庭疾患でよくみられる代表的な症状がありますので、ここから代表的な症状3つについて解説します。
ふらつく
犬の前庭疾患では、体の平衡感覚が失われているため、ふらつきがみられることがあります。
なかなか起き上がれず、寝たきりの状態になる場合もあるでしょう。
飼い主さんは、急な症状で慌ててしまうかもしれませんが、前庭疾患の場合には、数週間かけて治っていくことが多いので、落ち着きましょう。
ただし、高齢の犬でふらつく場合には、前庭疾患ではなく脳疾患の可能性もあるので必ず動物病院を受診するようにしてください。
首が傾く
犬の前庭疾患では、首が傾く「斜頸」と呼ばれる症状が多くみられます。
斜頸は、他の前庭疾患の症状と比較して、なかなか改善されにくい症状です。
実際の動物病院を受診する子の中でも、ずっと首が傾いたまま生活をしている犬や猫がいます。
元気や食欲も通常通りですが、首だけが傾いたままになってしまうことが多いです。
目が小刻みに揺れる
目が小刻みに揺れる、眼振と呼ばれる症状がよくみられます。
眼振は、脳疾患でもみられる症状なので、早めに動物病院を受診して原因を究明しましょう。
特発性の前庭疾患の場合には、数日経つと治ってくることが多いです。
老犬の前庭疾患の対処法
老犬が前庭疾患になってしまった場合には、一度動物病院に連れていくようにしましょう。
似たような症状が出る病気として、脳疾患や肝疾患、腎疾患の末期、腫瘍の脳転移などが考えられます。
こうしたさまざまな病気を鑑別するためにも一度動物病院で検査することをおすすめします。
老犬の前庭疾患は治る?
老犬の前庭疾患は、発症後1週間程度、症状が残りますが、2週間〜1ヶ月になると徐々に症状が改善していくことが多いです。
しかし、首が傾く「斜頸」の症状は、なかなか改善されず、生涯にわたって症状が残る場合もあります。
斜頸は症状は残るものの、本人は慣れてしまっていることがほとんどであり、上手に歩いてくれることも多いので、生活の質にはほとんど影響は与えないでしょう。
老犬の前庭疾患の検査内容
老犬の前庭疾患の検査は、除外診断により行うので、多種多様な検査を行う必要があります。 ここからは、老犬の前庭疾患で行う検査について解説していきます。
血液検査
血液検査では、肝臓、腎臓など全身臓器の数値をチェックします。
斜頸や、ふらつき、眼振といった症状が、本当に前庭疾患によるものなのかを判断できます。
血液検査でも特に異常がない場合には、前庭疾患の可能性は高いですが、さらなる除外診断を進めるため、レントゲンやエコー検査などその他の検査も行う必要があるでしょう。
神経学的検査
神経学的検査は、脳腫瘍などの脳疾患が隠れていないかどうかを検査することができます。
中枢性の前庭疾患の場合には、神経学的検査で何らかの異常を示すことがあり、脳の構造的異常を検査するための精査として、MRI検査が必要です。
歩行検査
歩行検査により、以下の点を確認していきます。
- 前足や後ろ足に麻痺が起こっていないかどうか
- しっかりと歩けるかどうか
- 旋回運動を行っていないか
診察室の中で、実際に歩かせてみて状態を判断することが多いです。
耳鏡検査
中耳炎や、外耳炎から前庭疾患を起こしていないかどうか判断するために耳鏡検査は必須です。
もし汚れが酷かったり、何らかの腫瘤が観察された場合には、耳の疾患により前庭疾患の症状が出ている可能性があります。
電気生理学的検査
電気生理学検査では、MRI検査で異常が検出できない抹消神経の疾患を診断する際に用いられる検査であり、脳や神経系の異常を発見するために行う検査です。
通常の一次病院で、この検査を行うことはあまりなく、専門的な設備がある病院で行うことが多いです。
レントゲン、エコー検査
レントゲン、エコー検査は、血液検査などの他の検査で異常がなくても行っておくべき検査です。
実は、体の中に腫瘍があっても血液検査で異常値が出てこないことがあります。
レントゲン、エコー検査は、こうした血液検査では捉えることができない異常を見つけることができるので、前庭疾患の犬では、必ず行う検査です。
MRI、CT検査
ここまで紹介した検査を行っても異常がない時には、MRIやCTなどの麻酔をかけての画像検査が必要になることもあります。
しかし、高齢犬の場合には、麻酔リスクも高く、特発性で治っていくこともあるので様子をみる飼い主さんも多いです。
かかりつけの獣医師さんとしっかり相談して検査を行うかどうかを判断してあげましょう。
老犬の前庭疾患の治療法
老犬の前庭疾患のほとんどが特発性の前庭疾患であり、特に治療方法はありません。
しかし、前庭疾患の原因が、抹消性や中枢性の場合には、それぞれの原因となる疾患に対しての対症療法や、手術などを行う必要があります。
対症療法
前庭疾患の症状によって、食欲不振や、気持ち悪さから嘔吐してしまうこともあるでしょう。
そのような場合には、脱水を防止するために、皮下点滴や吐き気どめを使用する対症療法を行います。
症状が良くなるまで、おうちで様子をみてもらうか、体調が悪い日が続くようなら通院で対症療法を行うことが多いです。
手術
特発性の前庭疾患では、手術が適応になることはないですが、中枢性、抹消性の前庭疾患など脳腫瘍や激しい中耳炎、外耳炎で起こっている場合には、手術も行うこともあるでしょう。
老犬の場合には、麻酔リスクもありますので、かかりつけの獣医師さんと行うかどうかを相談してみてください。
投薬
前庭疾患では、脳や耳の炎症が原因で症状が出ている場合もありますので、炎症どめの薬を使用する場合があります。
しかし、炎症どめの薬を使うと脳炎などの炎症性疾患の確定診断が難しくなるので使用するかどうかは、しっかりと獣医師と相談するようにしましょう。
老犬の前庭疾患の予防方法
老犬の前庭疾患は、急に発生することが多く、ほとんどが特発性の前庭疾患のため予防方法は特にありません。
症状が出たら、すぐに動物病院に連れていくようにしてください。
中耳炎や外耳炎などの耳の炎症による抹消性の前庭疾患の再発を予防するためには、耳掃除を定期的に行うことをおすすめします。
前庭疾患の老犬にできるケア
前庭疾患の老犬に飼い主さんができることとしては、以下の3つが考えられます。
- 円形サークルの中に入れて行動制限する
- 階段にゲートをつける
- 角に保護をつける
それぞれについて解説していきます。
円形サークルの中に入れて行動制限する
前庭疾患の犬では、旋回運動により同じところをくるくる回ったり、危ないところへ行ってしまうことがあるので、サークルの中に入れてあげた方が安心でしょう。
また、サークルも円形のサークルにしてあげると角もなくなるため安全です。
愛犬が前庭疾患になってしまった場合には、ぜひ試してみてください。
階段にゲートをつける
前庭疾患の犬では、平衡感覚を失ってしまっているので、なかなか思うように歩けません。
そのため、階段など高いところから落ちてしまう可能性もあります。
飼い主さんは、そうした危険がある場所には、丈夫な柵を使用して愛犬が立ち入らないようにしてあげましょう。
机の角など危険な所に保護をつける
ふらつきながら歩いた場合に、机や物の角に体をぶつけてしまうこともあるので注意が必要です。
飼い主さんは、テーブルなどの尖った角には、保護材を使用して愛犬が接触しても危なくないようにしてあげましょう。
前庭疾患の老犬が食べない時は?
前庭疾患の犬では、食事や水の摂取ができていない場合もありますので、もし摂取できていなさそうならば、補助して与えてあげましょう。
強制給仕用のシリンジを動物病院でもらっておうちで補助してあげると良いです。
また、あまりにも食べない、水を飲まない期間が長いと脱水症状を起こす場合がありますので、飼い主さんは、動物病院に連れていき点滴してあげるようにしてください。
前庭疾患の老犬を寿命を理解して、環境を整えてあげよう
今回は、老犬の前庭疾患について、寿命や原因、対策などを解説してきました。
老犬の前庭疾患は、脳腫瘍などの原因がない限りは、寿命に影響を与えません。
飼い主さんは、動物病院で一度しっかり検査してあげて、前庭疾患をもつ老犬が過ごしやすいような環境を整えてあげることを意識しましょう。