飼い主と犬の身の安全確保
屋内にいる時の場合
突然、大きな地震があなたと愛犬を襲ったら。その瞬間に、冷静な判断と行動ができるでしょうか。
普段どんなに落ち着いているわんちゃんであっても、経験したことのない揺れや音に大きな恐怖を感じ、パニックに陥ってしまう可能性があります。
だからこそ、もしもの時にどう行動すべきか、今からしっかりと心に刻んでおくことが、あなたと、そしてかけがえのない愛犬の命を守ることに繋がるのです。
まず、地震発生時に最も優先すべきことは、飼い主さん自身の安全確保です。これは、愛犬を守るための大前提。
あなたが無事でなければ、怖がっている愛犬を助けることはできません。危険を感じたら、まずはご自身の身を守ることを第一に考えてください。
丈夫なテーブルや机の下に、さっと身を隠しましょう。周りにすぐ隠れられるような家具がない場合は、クッションや雑誌、カバンなど、何でも構いませんので、頭をしっかりと保護してください。
落下物による怪我は、その後の避難行動に大きな支障をきたす可能性があります。人の安全が確保できてこそ、次のステップに進めるのです。
ご自身の安全を確保できたら、次は愛犬の番です。可能であれば、愛犬の名前を呼び、自分の元へ来させてください。
そして、隠れている机の下などに一緒に入り、しっかりと抱きしめてあげましょう。わんちゃんは、信頼する飼い主さんと離れないことで、少しでも安心感を得ることができます。
もし小型犬であれば、落下物から守るように、クッションなどの下で抱きかかえるのが有効です。
中型犬や大型犬で抱きかかえるのが難しい場合は、飼い主さんの体にぴったりと寄り添わせ、優しく声をかけながら体を撫でてあげてください。大切なのは、物理的に離れないこと、そして精神的にも独りにさせないことです。
しかし、多くのわんちゃんは、突然の大きな揺れや聞き慣れない音に、強い恐怖を感じてしまいます。
パニック状態になり、飼い主さんの声が届かず、部屋の中を走り回ってしまうかもしれません。最悪の場合、壊れた窓や偶然開いてしまったドアから外へ脱走してしまう危険性も考えられます。
パニックで脱走してしまうと、外にはどんな危険が待っているかわからないことに加え、見つけ出すことは非常に困難になります。
そうした事態を防ぐためにも、まずは落ち着いて、確実なわんちゃんの身柄確保が重要になります。リードが近くにあれば、素早く装着することも脱走防止の有効な手段です。
わんちゃんが恐怖のあまり、家具の隙間や部屋の隅に隠れてしまい、どうしても出てこようとしない場合は、無理やり引っ張り出そうとするのは避けてください。
パニック状態のわんちゃんは、飼い主さんであっても、反射的に噛みついてしまう可能性があります。飼い主さん自身が怪我をしてしまっては元も子もありません。
少し落ち着いてから、優しく声をかけ、安心させてあげましょう。正しい情報を得て、次の行動を判断するのはそれからでも遅くはありません。
地震の瞬間は、まず安全確保、そして愛犬と離れないこと。これを徹底することがとても重要です。
屋外にいる時の場合
もし愛犬とお散歩の途中で、地震が起きてしまったら…
あなたは愛犬を守るための正しい行動がとれるでしょうか。建物の中とは違い、屋外にはまた別の危険がたくさん潜んでいます。
いざという時にパニックにならず、的確に判断するためにも、屋外で被災した場合の行動について、今のうちからしっかりと確認しておきましょう。
お散歩中や公園で遊んでいる時に、大きな揺れなどの危険を感じたら、まずはその場で姿勢を低くして、揺れが収まるのを待ちます。
その際、最も重要なのは周りを見渡して、危険な場所から一刻も早く離れることです。たとえば、古いブロック塀や倒れてきそうな自動販売機、大きなビルのそばなどは非常に危険です。
窓ガラスが割れて、上から降り注いでくる可能性もあります。また、切れて垂れ下がった電線も、絶対に近づいてはいけません。
できるだけ周りに何もない、広々とした場所、たとえば公園の中央などへ素早く移動してください。
そして、愛犬を決して離さないようにしましょう。突然の揺れに驚いたわんちゃんは、恐怖心からパニックになり、リードを振り切ってどこかへ走り出してしまうかもしれません。
危険を感じた瞬間に、リードをぐっと短く持ち、愛犬を自分のすぐそばに引き寄せてください。可能であれば、しっかりと抱きしめて、大丈夫だよ、と声をかけながら安心させてあげましょう。
飼い主さんが落ち着いて行動することが、愛犬の心を落ち着かせる一番の方法です。大きな危険が一旦収まっても、決して油断はできません。
ひび割れた道路、傾いた電柱、崩れそうな建物など、新たな危険が潜んでいるかもしれません。安全に移動するためには、足元にも十分注意を払う必要があります。
割れたガラスの破片などで、わんちゃんが肉球を怪我しないように、できるだけ安全な道を選んで移動しましょう。
小型犬であれば、キャリーバッグを持っていなくても、抱きかかえて移動するのが最も安全な選択です。
安全な場所を確保できたら、次に行うべきことは、正確な情報を集めることです。スマートフォンなどを使い、まずは今起きていることの全体像を把握しましょう。
地震の規模や津波の心配はあるのか、そして避難所はどこに開設されているのか。こうした情報は、あなたの次の行動を決めるための重要な判断材料になります。
ただし、こんな時だからこそ気をつけたいのが誤情報です。SNSなどでは、人々の不安を煽るような誤情報が拡散されやすい傾向にあります。
必ず、気象庁や自治体など、公的な機関が発信している信頼できる情報源を確認するように心がけてください。
そして、可能であれば家族や大切な人との連絡を試み、お互いの安否を確認しましょう。事前に災害用伝言ダイヤルの使い方などを家族で話し合っておくと、いざという時にスムーズに連絡が取れ、お互いの安心に繋がります。
屋外での被災は予期せぬ危険との遭遇です。危険を避ける冷静な判断と、愛犬を守る強い意志、そして正しい情報が、あなたと愛犬の未来を守るのです。
適切な避難判断について
避難の必要性
次に考えなければならないのは「これからどう行動するか」という、とても重要な決断です。避難するべきなのか、それともこのまま家に留まる方が安全なのか。
テレビやラジオからは断片的な情報が流れ、周りがざわつき始めると、誰しも不安な気持ちになってしまうものです。
しかし、こんな時だからこそ、飼い主であるあなたが焦らないで、冷静に状況を見極め、適切な判断を下す必要があります。
まず、避難するかどうかを決める上で最も優先すべきなのは、お住まいの自治体から出される避難に関する情報です。
もし、避難指示が発令された場合は、迷う必要はありません。それは、その地域に何らかの危険が差し迫っているという、最も明確なサインです。
ご自身の判断で家に留まることはせず、直ちに愛犬と一緒に指定された避難場所へ向かう準備を始めてください。
この公式な情報を聞き逃さないためにも、日頃からスマートフォンに防災アプリを入れておいたり、自治体のSNSをフォローしておいたりするなどの対応をしておくと安心です。
一方で、特に避難指示などが出ていない場合や、建物の倒壊や火災といった二次災害の危険が差し迫っていない状況であれば、在宅避難という選択肢も考えられます。
必ずしも避難所に行くことだけが正しいわけではありません。特にわんちゃんにとっては、知らない人や他の動物がたくさんいる慣れない避難所の環境は、大きなストレスの原因になりかねません。
ライフラインが止まっていなくて、自宅の安全が確保できるのであれば、住み慣れたお家で過ごす方が、心身ともに落ち着いていられる場合も多いのです。
ただし、この在宅避難という判断を下すためには、事前確認が必要になります。それは、自治体が公表しているハザードマップを見て、ご自宅がどのような場所にあるのかを平時のうちに知っておくことです。
例えば、大雨や台風の際には浸水する可能性のある区域か、あるいは地震の揺れによって土砂災害の危険が高まる区域ではないか。
こうした情報を事前に知っておくことでいざという時に、より安全な判断ができるようになります。
そして、もし避難が必要だと判断した場合、絶対に覚えておいていただきたいのが同行避難という考え方です。
これは、災害が起きた時に、飼い主さんがペットと一緒に安全な場所まで避難することを指します。
環境省もペットを家に置いて避難することは、ペットが危険にさらされることから、ためらわずに同行避難をするよう推奨しています。
しかし、避難すると決めたからといって、何も考えずに最寄りの避難所へ向かうのは少し待ってください。
残念ながら、すべての避難所がペットを受け入れてくれるわけではないのが現状です。どの避難所がペットの受け入れに対応しているのか、また、受け入れ可能な場合でも、どのようなルールがあるのかを、事前に確認しておくことが極めて重要です。
自治体のホームページなどで公開されていることが多いので、今すぐにでも調べておくことをお勧めします。いざという時の冷静な判断と迅速な対応は、すべてこうした地道な事前確認の積み重ねから生まれるのです。
避難のための準備
怪我等の確認
避難を決意し、いざ外へ出発する前に必ず行ってほしいことがあります。それは、あなた自身と、愛犬の体に怪我がないかどうかの確認です。
大きな地震の後では、室内には思わぬ危険がたくさん潜んでいます。散乱したガラスの破片や、落下してきた家具などで、気づかないうちに傷を負っているかもしれません。
気持ちが焦る中ではありますが、怪我をしたまま無理に避難を始めると、後で状態が悪化してしまったり、避難の継続が困難になる可能性もあります。
安全な避難生活を送るための、とても大切な準備だと考えてください。
まず最初に確認するのは、飼い主さんご自身の体です。もしあなたが動けなくなってしまったら、そばにいるわんちゃんを安全な場所へ連れて行ってあげることはできません。
興奮状態にあると、アドレナリンの影響で痛みを感じにくくなっていることがあります。まずは落ち着いて、頭から足の先まで、自分の体に異常がないかを確認しましょう。
頭をどこかにぶつけて、出血していないでしょうか。手や足は問題なく動きますか。家具の転倒から身を守った際に、強く体を打ち付けているかもしれません。
特に注意したいのが、割れた食器や窓ガラスの破片による切り傷です。衣類の上からでは気づきにくい小さな傷でも、後からじわじわと出血してくることがあります。
服を少しめくってみるなどして、丁寧にチェックしてください。もし出血している箇所があれば、清潔な布などでしっかりと圧迫し、止血しましょう。大きな怪我の場合は無理に動かず、助けを呼ぶ判断も必要です。
ご自身の安全が確認できたら、次は愛犬の体を優しく、そして注意深く調べてあげましょう。わんちゃんは、私たち人間のように「ここが痛い」と⾔葉で伝えることができません。
それどころか、野生時代の名残から、体の不調や痛みを隠そうとする習性があります。飼い主さんが気づいてあげなければ、怪我をしたまま我慢し続けてしまうかもしれないのです。
まずは、わんちゃんを安心させるように優しく声をかけながら、全身をゆっくりと撫でてあげてください。頭や背中、お腹、しっぽの先まで、そっと触れていきます。
もし、どこか特定の場所を触った時に、キャンと鳴いたり、ビクッと体を震わせたり、嫌がって噛もうとするような素振りを見せたら、そこを怪我している可能性があります。落下物による打撲や、どこかに体を挟んでしまったのかもしれません。
そして、特に念入りに確認してほしいのが肉球です。地震の後は、床にガラスや陶器の破片が散らばっていることも多く、それを踏んでしまっている危険性が非常に高いからです。
わんちゃんの柔らかい肉球はとても傷つきやすく、一度切ってしまうと、歩くたびに痛みを感じることになります。
一本一本の足を優しく持ち上げて、肉球の間まで丁寧に見てあげてください。小さな破片が刺さっていないか、切り傷はないか、血が滲んでいないか。
もし可能であれば、少し歩かせてみて、足をかばうような仕草をしないか、いつもと歩き方が違わないかも観察してみましょう。
もし傷口から出血している場合は、きれいな水があればそっと洗い流し、清潔な布で傷口を優しく押さえて止血を試みます。
ただし、ガラス片などが深く刺さっている場合は、無理に抜こうとしないでください。かえって血管を傷つけ、出血がひどくなることがあります。
あくまで応急処置に留め、専門家の助けを待つのが賢明です。避難という次のステップに進む前に、まずはお互いの体を労わり、安全な状態を整えること。このひと手間が、これからの困難を乗り越えるための大きな力になるはずです。
避難グッズの持ち出し
あなたと愛犬の怪我の確認が済んだら、次はいよいよ家を出る最終段階です。災害はいつ、どんな形で私たちを襲うか予測ができません。
だからこそ、いざという時に必要なものを、その場で慌ててかき集めるのではなく、予め準備しておくことが、あなたと愛犬のその後の避難生活を大きく左右します。
避難グッズの準備は、愛犬への愛情の証であり、未来への備えそのものだと言えるでしょう。
まず考えておきたいのが、その大切な避難グッズの保管場所です。せっかく準備をしていても、災害発生時にそれを取り出せなければ何の意味もありません。
大きな揺れで家具が転倒し、クローゼットの扉が開かなくなってしまったり、落下物で通路が塞がれてしまったりすることは十分に考えられます。物置の奥深くや、倒れてきそうな棚の上などは、保管場所としては適していません。
玄関のシューズクロークや寝室の枕元など、家の中のどこにいてもすぐにアクセスでき、かつ避難経路の近くになるような場所に置いておくのが理想です。そして、その保管場所は、必ず家族全員で共有しておきましょう。
また、基本的なグッズを予めリュックサックなどにまとめておき、その上で、避難する時の状況に応じて必要なものをプラスするという考え方が大切です。
例えば、避難するのが寒い冬の季節であれば、体を温めるためのブランケットやペット用のカイロを追加しましょう。
逆に真夏であれば、冷却シートや電池式の携帯扇風機、多めの飲み水などが活躍します。その時の天候や気温、季節に合わせて、中身をカスタマイズする心の余裕を持つことが、避難生活の質を少しでも高めることに繋がります。
準備とは未来を想像する力。愛犬との穏やかな日常を守るために、今日からできることを始めてみませんか。