「なぜ急に吠えるの?」「どうして怖がるの?」愛犬の不可解な行動に悩んでいませんか?
その答えは、人間とは比較にならないほど鋭い犬の五感と、彼らだけが見ている環世界にあります。
わんちゃんの感覚はスーパーセンサーですが、鋭すぎるがゆえに日常の音や匂いが大きなストレスになっていることも少なくありません。
この記事では、嗅覚・聴覚・視覚の驚くべき仕組みと、飼い主さんが気をつけるべき生活習慣を解説します!
愛犬の感覚過敏や心理を正しく理解して、ストレスのない快適な暮らしを作ってあげましょう。
スーパーセンサーを持つがゆえの悩み

「どうして急に吠えるの?」「なんでこんな些細な音を怖がるの?」愛犬と暮らしていると、そんなふうに首をかしげたくなる瞬間がありませんか。
実はそこには、人間と犬との大きな誤解が潜んでいるかもしれません。私たち人間とわんちゃんは、同じ部屋で隣同士に座っていたとしても、全く異なる環世界を生きています。
環世界とは、その動物が感覚器を通して見ている独自の世界のこと。
人間には何でもない日常の風景が、優れた感覚を持つ彼らにとっては、刺激が強すぎる過酷な環境であることも少なくありません。
わんちゃんの五感は、私たちが想像する以上に鋭いスーパーセンサーです!
しかし、その性能が良すぎるがゆえに、光や音、ニオイなどを過剰に受け取ってしまい、感覚過敏という辛い状態になっていることがあります。
飼い主さんが問題行動だと悩んでいるその行動は、実はわがままや反抗ではなく、耐えきれない刺激に対する彼らなりの精一杯の反応であり、見逃してはいけないストレスサインである場合がとても多いのです。
この犬の感覚の仕組みを知り、彼らの辛さを理解してあげるだけで、愛犬との無用な摩擦は劇的に減っていきます。
【嗅覚編】優れた嗅覚にとっての過敏
犬が感じる匂い

わんちゃんの嗅覚が素晴らしいことは皆さんよくご存じですよね。その感度は人間の数千倍から、種類によってはなんと1億倍とも言われています。
これは、鼻の奥にある匂いを感じ取る嗅上皮という膜の広さが、人間とは比べ物にならないほど広いからなんです。
彼らにとって匂いを嗅ぐことは、単に「いい匂いだな」と感じるだけでなく、生きていくために欠かせない大切な情報収集の手段です。
地面に残った匂いから「誰がここを通ったのか」という過去を知り、今の状況を把握し、風に乗って運ばれてくる微かな粒子から「誰かが近づいてくる」という未来までも分析しているのです。
少し想像してみてください。もし私たちが、強烈な香水で満たされた狭い香水瓶の中に閉じ込められて暮らしているとしたらどうでしょうか。
頭がクラクラして、逃げ出したくなってしまいますよね。
実は、私たちが良かれと思って使っている柔軟剤や消臭スプレー、アロマといった人工香料が、敏感なわんちゃんにとってはまさにそのような悪臭や、耳元で叫ばれているような騒音レベルのストレスになっている可能性があるのです。
自然界には存在しない化学的な強い香りは、彼らの繊細なセンサーを混乱させ、大きな負担をかけてしまいます。
さらに驚くべきことに、彼らは汗や呼気に混じる微量なフェロモンから、相手の恐怖や緊張といった感情まで読み取っています。
大好きな飼い主さんの心の揺れ動きさえも、わんちゃんは鼻先で敏感に感じ取っているのですね。
気をつけたい言動

お散歩の途中、わんちゃんが電柱や草むらの匂いを熱心に嗅ぎ続けて、なかなか歩き出してくれないことはありませんか。
早く行きたい飼い主さんとしては、つい焦って「行くよ」とリードを引っ張ってしまいがちですが、これはクン活と呼ばれる彼らにとって非常に大切な情報収集の時間です。
そこで急にグイッと首を引っ張って無理やり止めさせる行為は、人間で例えるなら、面白いニュースを読んでいる最中に突然新聞を取り上げられるようなもの。
この強制的な情報遮断は、私たちが想像する以上に彼らをがっかりさせ、大きなストレスを与えてしまいます。
危険な場所でなければ、納得するまで嗅がせてあげることが心の満足につながります。また、お家の中で良かれと思ってやっている家事が、実は愛犬の負担になっているケースもあります。
いつも使うベッドやお気に入りの洋服を、香りの強い洗剤や柔軟剤で洗ってはいないでしょうか。
清潔にしてあげたいという愛情からくる行動ですが、安心できる自分の匂いが消されてしまい、代わりに鼻を突く化学物質の匂いが染み付いてしまうことは、嗅覚の鋭い彼らにとって不安や苦痛の種になりかねません。
タバコや芳香剤の匂いが充満する室内も、逃げ場のないわんちゃんにとっては過酷な環境です。
今日からできる一番の優しさは、身の回りのものをできるだけ無香料に変えてあげること。それだけで、敏感な彼らの世界は驚くほど穏やかで快適なものになるはずです。
【聴覚編】見えない音の恐怖
犬が感じる音

ふとした瞬間に、わんちゃんが誰もいない虚空をじっと見つめていたり、何もない壁に向かって急に吠え出したりして、「もしかして幽霊?」と背筋が寒くなった経験はありませんか。
でも安心してください。それはオカルト現象ではなく、人間には感知できない音を彼らがキャッチしている証拠なんです。
わんちゃんの聴覚は人間よりもはるかに広い可聴域を持っていて、私たちが聞こえる範囲を遥かに超えた高い周波数の音まで聞き取ることができます。
さらに、何百メートルも先から近づいてくる大好きな飼い主さんの足音だけを正確に特定する聞き分け能力も持っています。
しかし、このスーパーセンサーとも言える優れた耳は、現代社会で暮らす上では大きなストレスの入り口になってしまうこともあります。
私たち人間には静かに思える部屋の中でも、実は冷蔵庫のモーター音や充電中の電子機器から出る高周波のノイズなど、様々な生活音が彼らには不快な騒音として一日中響いているかもしれません。
また、夏の風物詩である雷・花火などの突発的な爆音は、聴覚が鋭い彼らにとって、単にうるさいというレベルを超えて、耳をつんざくような身体的な痛みやパニックを伴う恐怖そのものです。
常に何かの音が聞こえ続けている世界では、心から安心してぐっすり眠ることさえ、実はとても難しいことなのかもしれないのです。
気をつけたい言動

愛犬が悪戯をした時、とっさに「コラ!」「ダメ!」と大きな声を出して叱ってはいませんか。あるいは、感情的になって高い声で叫ぶように注意してしまうこともあるかもしれません。
実は、私たち人間が発する大声や甲高い金切り声は、わんちゃんにとっては言葉として届く前に、まるで敵が来た時の警戒音のように聞こえてしまうことがあります。
その結果、彼らは反省するどころか、飼い主さんが興奮していると感じて一緒になってパニックになったり、恐怖で萎縮して信頼関係にヒビが入ってしまったりすることも。
まずは深呼吸をして、低く落ち着いたトーンで伝えることが大切です。また、お部屋の環境も見直してみましょう!
寂しくないようにとテレビや音楽を一日中つけっぱなしにしているお家も多いですが、聴覚が鋭い彼らにとって、それは休まる暇のない騒音の中にいるのと同じです。
時には音の鳴るものをすべて消して、完全に静かな環境で脳を休ませてあげる時間を作ってあげてくださいね。
そして、寝ているわんちゃんに触れる時も注意が必要です。いくら耳が良くても、熟睡している時に急に触られるのはとても怖いもの。
必ず名前を呼ぶなどの合図を送って、これから触るよという予告をしてあげましょう!
それでもどうしても生活音が辛い時のために、薄暗くて静かなクレートのような、音から遮断された逃げ場を常に用意してあげることも、彼らの心の安定を守るための大きな助けになりますよ。
【視覚編】犬が視てる世界
見えないものと見えるもの

よく「犬は視力が悪い」なんて耳にしませんか。確かに、止まっているものの細部を見る視力は人間より少し劣っていて、世界は全体的にぼんやりと映っていると言われています。
でも、だからといって彼らの目が不便なわけではありません。むしろ、人間には真似できない特殊なレンズを通して世界を見ていると言ったほうが正しいでしょう。
例えば、お散歩中に通り過ぎるバイクや、公園で走り回る子供たちに急に反応して、グイッとリードを引っ張ることがありますよね。
飼い主さんはヒヤッとする場面ですが、これは彼らの動体視力が抜群に優れているからこそ起こる反応なんです!
遠くで素早く動く獲物を瞬時に見つける狩猟本能が、現代の暮らしの中でもしっかりと息づいている証拠なんですね。
動くものを目で追ってしまうのは、決してしつけ不足の悪い癖ではなく、彼らの生きるための大切な才能なのです!
また、彼らの目に映る景色は、私たちが見ているようなカラフルなものではありません。
人間は赤・緑・青の三原色を感じますが、わんちゃんの色覚は主に青と黄色の世界で構成されています。
だから、緑の芝生の上にある真っ赤なおもちゃは、彼らにはグレーっぽく見えて背景と同化してしまい、見つけにくい色になってしまうんです。
その代わり、目の奥にあるタペタムという反射板のような層のおかげで、わずかな光さえあれば暗闇でもはっきりと物を見ることができます。
そしてもう一つ覚えておきたいのが、視線の意味です。私たちは愛情を込めて真正面からじっと見つめることがありますが、犬の世界ではそれが威嚇や挑戦と受け取られることもあります。
無理強いするアイコンタクトではなく、横から優しく見守るような視線が、彼らにとっては一番安心できる愛情表現なのかもしれません。
気をつけたい言動

人間同士なら「目は口ほどに物を言う」なんて言葉があるくらい、目を見て話すのは誠実さの証ですよね。
でも、わんちゃんの世界では少し事情が違います。
可愛いからといって、真正面からじっと目を見つめ続ける行為は、彼らにとって強い凝視となり、喧嘩を売られているような威嚇のサインと受け取られてしまうことがあるのです。
もし愛犬が視線をプイッと逸らしたなら、それは嫌いだからではなく、「争うつもりはないよ、落ち着こう」というカーミングシグナルを送ってくれているのかもしれません。
そんな時は私たちも視線を外して、敵意がないことを伝えてあげましょう。また、触れ合い方にも注意が必要です。
小さなわんちゃんに対して、立ったまま頭上から覆いかぶさるように手を伸ばしていませんか。
この動作は、彼らにとって巨大な影が迫ってくるような強い圧迫感と恐怖を与えてしまいます。
触る時は姿勢を低くして、下から優しく手を差し伸べるのがマナーです。後ろなどの死角から急に触れるのも驚かせてしまう原因になるので、必ず視界に入ってから触れるようにしてくださいね!
そしてお散歩中、もし苦手な車や猫を見つけて興奮してしまったら、言葉で叱るよりも先に、飼い主さんが体を使って対象物が見えないように視界を遮ってあげましょう。
刺激を物理的にカットしてあげるほうが、彼らはスッと我に返りやすくなります。
【心理編】「感覚を使わせない」というストレス
犬が感覚を使う意味

わんちゃんにとって、匂いを嗅いだり音を聞き分けたりして五感をフル活用することは、単なる暇つぶしではありません。
それは私たち人間が複雑なパズルを解いたり、新しい知識を得てワクワクしたりするのと同じように、脳の活性化を促す最高の脳トレであり、生活の質を高めるエンリッチメントそのものなのです。
安全な室内で守られて暮らす現代のわんちゃんたちは、ともすれば刺激が少なく退屈な毎日に陥りがちです。
でも、本来彼らは優れた探索欲求を持つハンター!
自分の鼻や耳を使って「あ、あそこに何かあるぞ」「これはあの匂いだ」と情報を自らキャッチし、状況を正しく分析できた時の喜びは、彼らに「自分でできた!」という大きな自信を与えてくれます。
この小さな成功体験の積み重ねが自己効力感を育み、何事にも動じない強い心を育てていくのです。
逆に、こうした感覚を使う機会を奪われてしまうと、彼らの心はどうなってしまうでしょうか。
有り余るエネルギーと満たされない欲求のやり場を失い、自分の手足を舐め続けたり、しっぽを追いかけ回したりといった常同行動として現れてしまうことがあります。
これは「もっと何かを感じたい、脳を使いたい」という彼らからの切実なSOSかもしれません。
感覚を使うことは、ご飯を食べたり眠ったりするのと同じくらい、生きていく上で欠かせない生存欲求です。
ただ可愛がって守るだけでなく、彼らの「知りたい」という本能を十分に満足させてあげることこそが、本当の意味での幸せな暮らしを作る鍵になるのです!
気をつけたい言動

毎日のお散歩、ただ歩くだけの運動とトイレの時間になってしまってはいませんか。
また愛犬が少しでも興味を持って立ち止まろうとすると「ダメよ、ついてきなさい」とリードを引いてしまってないでしょうか。
もちろん安全のために飼い主さんが主導権を持つことは大切ですが、一歩家を出てから帰るまで、全ての行動をコントロールしようとするのは少し窮屈かもしれません。
自分の行きたい方向に行けない、気になる匂いも嗅げないという状況が続くと、わんちゃんの自律性は失われ、ただ言われた通りに動くだけの無気力な状態になってしまうこともあります。
変化の少ない室内でお留守番をしている時間の長い子にとって、外の世界は刺激に満ちた宝箱のような場所です。
明日のお散歩からは、ぜひ意識を変えてみてください。長い距離を歩く必要はありません。
その代わり、愛犬が気になった電柱や草むらで立ち止まり、納得するまで匂いを嗅がせてあげる時間を5分だけ作ってみましょう!
自分自身の鼻で情報を集め、世界を感じることで得られる満足感は、何キロ歩くよりも彼らの心を満たしてくれます。
そんな質の高い散歩ができた日は、家に帰ったあとの愛犬の顔つきが、いつもよりずっと穏やかで満足げなものに変わっているはずです。
犬の五感について、私たち人間との違いや、よく見る行動からわかる犬の感じ方について、こちらの記事で紹介していますので、合わせてご覧ください↓